EXHIBITION

沖潤子

「刺繍の理り」

2020/7/18 Sat - 8/22 Sat

KOSAKU KANECHIKAでは、2020年7月18日から8月22日まで、沖潤子展「刺繍の理り」を開催いたします。
沖潤子は、古い布や道具が経てきた時間、またその物語の積み重なりに、刺繍と彼女自身の時間の堆積を刻み込み、紡ぎ上げることで、新たな生と偶然性を孕んだ作品を発表してきました。
現在開催中の山口県立萩美術館・浦上記念館での個展「anthology(アンソロジー)」では、全国から寄せられた7,000個あまりの糸巻きを用い、新たに紡ぎ生まれたインスタレーション作品を展示。それぞれの糸巻きの、そしてその所有者たちの過ごしてきた時間と、布を支持体におびただしい数の針目によって立体化された沖の刺繍の造形が、会場となった美術館の茶室で出会い、一年という展示期間をかけて新しい物語を作っていきます。沖の刺繍はいわば、それぞれの時間を出会わせ、混ざり合わせ、新しいものを生み出すための媒体といえるかもしれません。
一方、本展で展示する作品はシンプルに、刺繍というもの自体に向き合ったものになっています。沖は以下のように語ります。

 

今回の個展では兎にも角にも刺繍に徹したい。
刺繍という漢字は「粛々と刺す」と表す。理(ことわ)りとは「当然であるさま・もっともであるさま」の意である。
私の解する、刺繍のもっともであるさまをご覧いただきたい。
時間を主題として時を経た布や道具の懐に混ぜ込むように針目を重ねてきたが、進路を変える。絶対的な時間が限られていることを知り、純粋に自身への責任を認識したためだ。
刺繍の作品でこうして発表の機会をいただいている今、授かった力を使いきりたい。
私が私であるが故の刺繍に徹する。むきだしの刺繍である。

 

この沖の変化は期せずして、ウイルスの脅威に世界中が一斉に立ち留められ、不安と恐れに満ちた危機の時代と重なり合いました。以前と同じ状態には戻れないこと、人間の営みとは本当は不確定なものであることを誰もが知りました。一方で、人々の価値観が変わる可能性にも希望を見出せるような、そんな転換期に私たちは立っています。
その時に何をするか。ドイツの版画家ケーテ・コルヴィッツ(1867—1945)について小説家・評論家の宮本百合子が書いた、沖がこれまでに幾度となくノートに書き写したという、評論の一節があります。

 

「才能というものは一つの義務である」。才能というものが与えられてあるならば、それは自分のものであって、しかも私のものではない。それを発展させ、開花させ人類のよろこびのために負うている一つの義務として、個人の才能を理解したループ祖父さんの雄勁な気魄は、その言葉でケーテを旧来の家庭婦人としての習俗の圧力から護ったばかりでなく、気力そのものとして孫娘につたえた。多難で煩雑な女の生活の現実の間で、祖父の箴言は常にケーテの勇気の源泉となったように思える。 
(「宮本百合子全集 第十四巻」1979年 新日本出版社 )

 

この言葉は今いちど沖に強く語りかけ、彼女の制作に迷いなく向かわせています。媒体としての刺繍ではなく、刺繍そのものに取り組み、膨大な針目の筆致をシンプルに発表する。約10点を展示する本展は、新たな始まりとなる展覧会です。起きている出来事と歴史を結び付け、未来につなげること。このアーティストの役割は、特にいま、必要とされているように思えます。私たちが沖の作品に何をみることができるのか、是非展覧会をご高覧下さい。

 



展覧会概要

展覧会名
沖潤子「刺繍の理り」

展覧会会期
2020年7月18日(土) - 8月22日(土)

開廊時間
11:00 - 18:00(火・水・木・土)
11:00 - 20:00(金)
日・月・祝は休廊

会場
KOSAKU KANECHIKA
〒140-0002
東京都品川区東品川1-33-10
TERRADA Art Complex 5F
03-6712-3346
kosakukanechika.com

入場無料




沖潤子(おき じゅんこ)

1963年浦和市生まれ。現在は鎌倉市を拠点に制作しています。主な個展に「Recycle」(ARTS & SCIENCE 青山、東京、2009)、「刺青」(Gallery B、神奈川、2013)、「gris gris」(DEE’S HALL、東京、2016)、「JUNKO OKI」(2017)/「Truly Indispensable」(Office Baroque、ブリュッセル、2019)が、主なグループ展に「コレクション展1 Nous ぬう」(金沢21世紀美術館、石川、2016)、「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2018」(文翔館、山形、2018)、「現在地:未来の地図を描くために[2]」(金沢21世紀美術館、石川、2019)などがあります。2014年には、自身の撮影による作品集「PUNK」(文藝春秋)を刊行しました。作品は金沢21世紀美術館に収蔵されています。KOSAKU KANECHIKAでは2018年に引き続き3度目の展覧会となります。また現在、山口県立萩美術館・浦上記念館にて個展「anthology」を2021年3月まで開催中です。

WORKS

  • 泰山木, 2020

  • 水蜜桃, 2020

  • 紫陽花, 2020

  • 泰山木, 2020

  • 水蜜桃, 2020

  • 紫陽花, 2020

  • 百日紅, 2020

  • プラタナス, 2020

  • アネモネ, 2020

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