青木豊 「歩く花嫁」

2022/6/4 Sat - 2022/7/9 Sat

KOSAKU KANECHIKAでは、2022年6月4日から7月9日まで、青木豊展「歩く花嫁」を開催いたします。
 
青木豊は、絵画の視野を広げ、世界と絵画の関係とその新しい可能性を追究する制作活動を行っています。二次元と三次元を自由に行き来するような作品や、素材の物質性や制作方法自体、そして鑑賞者の視線の動きの相互反応にフォーカスした作品。刻々と変わる絵画の豊かな表情を、時間軸で瞬間としてとらえる試み。また特に青木は一貫して光へ – 光が時間軸、鑑賞者の存在、展示空間などの環境の要素に補完され、有機的に立ち上がるような豊かさを捉え、また一方で光の存在の自明性自体を問い直すこと – アプローチしてきました。実験と新たな発見のプロセスを繰り返すことによって、青木は常に絵画そのものを再発見しています。

Untitled
2021
Acrylic, spray paint on canvas mounted on panel
91.0 x 292.0 cm

KOSAKU KANECHIKAで5度目となる本展へ、青木は次のようなステートメントを寄せています。

昨年、素晴らしい縁側に座ることができた。そこは二階から一階へという動線で、光とないまぜになった木々の粒子を浴びて階下へくだる。突き当たりの小窓に鮮やかな斜線。歩みを進めると上階とは異なる苔生した庭のざらつきが現れる。
居合わせた人々は思い思いに腰を下ろし居場所をみつけてしんとなる。板張りがギッと音を立て、艶めいた床から生じた反射が庭と建物内を浸透させている。
そこにある環境は微動していて、僕はその境界の働きかけを受けてまぎれもない現実の重なりの中にいた。この外側に働きかけてくる美に応答したい。

Untitled
2022
Acrylic, spray paint, aluminum paint on canvas mounted on panel
97.0 x 137.0 cm
Untitled
2022
Acrylic, spray paint on canvas mounted on panel
97.0 x 137.0 cm
Study for “Untitled”
2022
Acrylic, spray paint, aluminum paint on canvas
30.5 x 41.0 cm
Study for “Untitled”
2022
Acrylic, spray paint on canvas
30.0 x 40.0 cm
Untitled
2022
Acrylic on canvas mounted on panel
97.0 x 137.0 cm
Untitled
2022
Acrylic, spray paint, aluminum paint on canvas mounted on panel
97.0 x 137.0 cm

この印象的な体験から得た感覚は、「印象派以降の絵画を総括し、現在を映し出しているように思えた」と青木は語り、それを以下のように説明しています。

体験の中で大きな役割を持つ階段は、マルセル・デュシャン作「階段を降りる裸体no.2」を青木に思い起こさせました。裸体が示すのは女神(神話)から人間(現実)への移行であり、運動とそれを構成するゆらぎを伴って「絵画を現実の世界に引き下ろす宣言(網膜からの解放)」がなされたと彼は解釈します。

ところがこの移行はうまくいかなかった。絵画は次の神話であるレイヤーの恩恵を受け、透明性を担保に均質化し、透明な膜の積層によって上書きされ続けている。
青木はそう分析し、現在の神話<レイヤー>について、階段を降りた後の人間(現実)のゆくえはこのようにレイヤーの上、つまり空中に浮いた状態で浮遊し続けている状態にある、と批判的な視点を提示します。

Untitled
2022
Acrylic, spray paint, aluminum paint on canvas mounted on panel
137.0 x 97.0 cm
Untitled
2022
Acrylic, spray paint on canvas mounted on panel
137.0 x 97.0 cm
Untitled
2022
Acrylic on canvas mounted on panel
137.0 x 97.0 cm

それに対し彼が試みるのは、「レイヤーにささくれを作って絵画を現実と対峙させる」ことです。これまでの制作で実践してきたように、描いた筆致の上に、筆致とは関係のない方向からスプレーの粒子を付着させる、絵の具のボリュームが陰を生む、乾ききらない絵の具の上に絵の具をのせ、下層を一緒くたにして引き延ばす、といった方法によって積層された要素にかかわりを持たせることで、ランダムなライブ感の中から現実と対峙する場が生成されます。

ステートメントで紹介した特別な体験をきっかけに、これまでの自身の実験を美術史の潮流に接続させ、新たな道筋を見据える青木の挑戦を、この機会に是非ご高覧ください。

Untitled
2022
Acrylic, spray paint on canvas mounted on panel
97.0 x 137.0 cm
Untitled
2022
Acrylic, spray paint on canvas mounted on panel
97.0 x 137.0 cm
Untitled
2022
Acrylic, spray paint, aluminum paint on canvas mounted on panel
97.0 x 137.0 cm

青木豊(あおき ゆたか)

1985年熊本県生まれ、現在は東京を拠点に制作しています。2008年に東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻を卒業、2010年同大学院造形研究科美術専攻領域修了。主な個展に「multiprime」(hiromiyoshii、2011)、「外の部屋、中の庭」(熊本市現代美術館、2012)、「Mouvements | ムーブマン」(Sprout Curation、2014)、主なグループ展に「絵画の在りか」(東京オペラシティ アートギャラリー、2014)、「VOCA展」(上野の森美術館、2016)、「熊本市現代美術館コレクション展 形が変わることで見えるもの(見えないもの)」(熊本市現代美術館、2016)、「きっかけは「彫刻」。 ―近代から現代までの日本の彫刻と立体造形」(熊本市現代美術館、2019)、「メタマテリアリズム ―物質を超えて―」(⽇本橋三越本店 本館6階 コンテンポラリーギャラリー、2021)などがあります。作品は熊本市現代美術館、高橋龍太郎コレクションにパブリックコレクションとして収蔵されています。KOSAKU KANECHIKAでは2017年、2019年、2020年、2021年に続き、5回目の個展になります。

Photo by Chikashi Suzuki