会場
Messe Basel
Messeplatz 10
4058 Basel Switzerland
ブース番号
U19 (Unlimited sector)
出展作家
沖潤子
KOSAKU KANECHIKAは、2026年6月18日(木)から6月21日(日)に開催される「Art Basel Unlimited 2026」で、沖潤子の大型インスタレーション作品《anthology》を展示いたします。
沖潤子は、生命の痕跡を刻み込む行為として、布に針目を重ねた作品を制作しています。下絵も明確な意図もなく、⼼の解き放たれるままに縫われる沖の刺繍作品は、ボロ(繕ったり継ぎ合わせたりした織物)から100年以上前の⾵呂敷、窓枠、⽊製の⾦盥、ヴィンテージのデザイナーズ・ウェアに⾄るまで多岐にわたる素材を使用しています。すべての素材には所有者、⽬的、時間性、地域性といった独⾃の物語が必然的に絡み合っており、沖はそのひとつひとつを⼀期⼀会の出会いとして扱います。これらの物が以前存在していたそれぞれの歴史と時間を慎重につなぎ合わせ、新たな⽣命と意味を宿す作品を創り出します。
本作は、国際芸術祭「あいち2025」のために構想されたサイトスペシフィックなインスタレーションを発展させたものです。舞台となったのは、日本の近代工芸運動における中心的人物、藤井達吉のアトリエを移築した茅葺き屋根の古民家であり、日清・日露戦争および太平洋戦争で命を落とした人々を追悼する碑に囲まれた空間でした。作品の中心的なテーマは「祈り」でした。
本作の《anthology》というタイトルは、他者との関わりと共にこのインスタレーション作品を構築していくことを示唆しています。2020年、山口県立萩美術館・浦上記念館での個展では、日本各地から個人的な思い出と共に寄せられた約7,000個の糸巻きを用いたインスタレーションを発表しました。昨年の「あいち2025」では、全国各地から寄せられた約17万本の使用済みの針が、瀬戸の粘土の塊に刺さった状態で作品の一部となりました。これらの彫刻は、使い終えた針を豆腐などの柔らかいものに刺して供養する 「針供養」を想起させ、集合的な祈りの風景を創出していました。また、会場に用意された、来場者が赤い糸で自由に刺繍を施すことのできる布は、兵士たちの武運を祈って女性たちが千針縫い込んだお守り、「千人針」の歴史を再訪しています。第二次世界大戦末期には、無事に帰還してほしいという願いが戦争遂行の精神に反するとみなされ、この慣習は禁じられました。沖の作品は、祈ることすら許されなかった歴史を可視化する一方で、その素材がもつあたたかみや、それが媒介となって生じる時代を越えたつながりによる癒しも感じさせます。
沖の刺繍は、裁縫教室を営んでいた母が残した素材をもとに始まりました。彼女の創作の原点のひとつは、物資が乏しかった第二次世界大戦中に祖母が母のために作った学校の制服です。祖母は下着や夫のズボンをつなぎ合わせ、襟と袖口の白いラインを白糸で細かく縫い上げることで仕上げました。沖の作品は、生き延びるための手段として、祈りとして、そして忍耐の表れとして、女性たちが針仕事に込めてきた個人的・集合的な歴史の上に築かれています。
本作は、作家にとって最大規模となるインスタレーション作品です。この機会に是⾮ご⾼覧下さい。