会場
Messe Basel
Messeplatz 10, Basel 4058 Switzerland
ブース番号
P4
出展作家
沖潤子
KOSAKU KANECHIKAは、2025年6月19日(木)から6月22日(日)に開催されるアートフェア「Art Basel 2025」に、沖潤子の個展で参加いたします。
沖潤子は、生命の痕跡を刻み込む作業として布に針目を重ねた作品を制作しています。瞑想的で丹念な沖の制作は、使い古された布、様々な種類の糸、ファウンド・オブジェ、そして彼女自身の作品を用い、刺繍の構造化された慣習を否定しながらも、歴史、年代、物語、感情を縫い合わせるものです。 下絵も明確な意図もなく、⼼の解き放たれるままに縫われる沖の刺繍は、抽象的なパターン、モチーフ、フォルムを形作り、作風の物質的、感情的な激しさを反映した独自の芸術的アイデンティティを形成しています。
彼⼥の作品はまた、アッサンブラージュの⼿法も取り⼊れており、その素材は、ボロ(繕ったり継ぎ合わせたりした織物)から100年以上前の⾵呂敷、窓枠、⽊製の⾦盥、ヴィンテージのデザイナーズ・ウェアに⾄るまで多岐にわたります。すべての素材に所有者、⽬的、時間性、地域性といった独⾃の物語が必然的に絡み合っており、沖はひとつひとつを⼀期⼀会の出会いとして扱います。これらの物が以前存在していたそれぞれの歴史と時間を慎重につなぎ合わせ、新たな⽣命と意味を持つ器となる作品を創り出します。
不完全で使い古された素材を扱うには、磨耗や⾊あせを受け⼊れることが必然となり、それは偶然の結び⽬やもつれ、裂け⽬を取り⼊れる沖の刺繍に対する姿勢ともつながっています。彼⼥は、割れた器の破⽚をつなぎ合わせて新しい作品を作る陶芸の「呼継ぎ」など、⽇本の伝統的な技法から着想した手法を取り入れ、歴史の継続や既存の物の再利⽤を主張しています。沖は、自身の刺繍を既成のものと「まぜる」ことで、それらの物語に加え、過去と現在の共存を保とうとしています。
沖が作家活動を始めたきっかけは、長年裁縫に親しみ、子供たちの洋服を作ったり、洋裁教室を開いたりしていた母親の存在でした。1996年に亡くなった彼女は、貴重な古い生地、糸巻、洋裁道具を残しましたが、沖はそれらを使うことができないでいました。数年後、沖の幼い娘は、母親がこれらの貴重な遺品に躊躇していることに気づかず、母への誕生日プレゼントとしてこれらの素材を使って小さな手提げ袋を作りました。当初は唖然としたが、このことがきっかけとなり、沖は大切なものがさらなる何かへと生まれ変わること、そして作法や流儀に囚われない純粋な創作意欲と気概の大切さを知ります。この出来事に背中を押され、沖はアーティストとしての創作活動を本格的に開始しました。母親が家族のために裁縫をしていたのに対し、沖は自分のために刺繍をしていると言います。本展では、母親が作ったベビードレスに沖が刺繍を施し、自分の時間と母親の時間をまぜた作品も発表します。
本展に際し、作家は以下のステートメントを寄せています。
私は刺繍をしています。「刺繍」という言葉のイメージに抗い、時間を縫いとめることのみで完成します。
制作の源泉は母です。生きていた母と亡くなってからの母、両方の存在と記憶が私の中で昇華され、手が動きます。母が死んだ年齢になり新たな境地に辿り着きました。ここからまた始まります。
本展では約16点を展⽰します。この機会に是⾮ご⾼覧下さい。