EXHIBITION

舘鼻則孝

「WOODCUTS」

2019/9/7 Sat - 10/12 Sat

KOSAKU KANECHIKAでは、9月7日より舘鼻則孝展「WOODCUTS」を開催いたします。
舘鼻則孝は、日本古来の文化的に価値のある部分と、現代の要素を組み合わせることで、新たな視点と世界観を提示します。俯瞰的な視野を持ちつつ、詳細を徹底的に掘り下げる。それが工芸的な手仕事で精緻に完成された作品として表現されます。歴史、そのなかで育まれてきた独特の美学、文化や思想。それらを再考することで、未来への可能性を示す舘鼻の作品は世界で高く評価され、遊女が履く高下駄から着想を得た代表作「ヒールレスシューズ」等の作品が、ニューヨークのメトロポリタン美術館やロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館などに収蔵されています。

 



展覧会について

本展の中心となるのは、平行四辺形に五本の線を組み合わせた、ミニマリズムを背景に日本独特の香りの文化を表現した作品群「ウッドカッツ」です。以下は香りの日本文化についての、舘鼻の制作ノートからの抜粋です。

 

一連の五十二枚の木板は、五本の線の組み合わせのみで表された、五十二種類の図となっています。これらの五十二種類の図は、現代より三百年ほど遡る江戸時代に生まれた、源氏香と呼ばれる香文化のモチーフです。源氏香は、組香(くみこう)と呼ばれる競技形式の香りの鑑賞方法のことで、順に炷かれた香りの異同を単に判ずるだけでなく、それをもとに図案を表し、源氏香の図に付された源氏物語の巻名を書き添えることで完成されます。
538年、仏教伝来とともに大陸よりもたらされた香は、後に平安時代の貴族文化として日本独自の発展を遂げました。また、奈良時代の日本書紀には、日本に初めて香木が漂着したのは595年と記されています。
今から千年以上も前にもたらされてから、文化として日本独特の発展を遂げた香は、臭覚だけでなく視覚や聴覚にも訴えかけるような表現として確立されることとなり、それらが貴族社会の中でも広く知られるようになりました。紫式部によって貴族社会の模様を描いた「源氏物語」の中でも、香はとても印象的に描かれています。平安時代では、香は着物や恋文に焚きしめて使われました。暗がりの中、夫が妻の元へ赴く通い婚では、香りのやりとりがありました。

 

「空蝉の身をかへてける木のもとになを人がらのなつかしきかな」
光源氏 十七歳の和歌

 

「空蝉の羽にをく露の木がくれて忍び忍びに濡るる袖かな」
空蝉の返歌

 

伊予介(いよのすけ)の妻の空蝉(うつせみ)を求める光源氏は、夜に忍び入ると空蝉は薄衣一枚を残して逃げてしまいます。空蝉の匂いが染み付いたその衣を光源氏は持ち帰り、空蝉を思いながら抱きしめます。空蝉が夫とともに都を去るとき、その衣は空蝉のもとに返されるのですが、衣には光源氏の匂いが染み付いていました。夫ある身を憂い、光源氏との身分の違いに袖を濡らす空蝉。
源氏物語 第三帖「空蝉」より解説

 

貴族文化だけではなく、仏教の信仰に強く結びついている香文化もあります。焼香のように、刻んだ香木に直接火を付けて焚くことによって、香煙が発生します。その香煙が天に向かって立ち上ることから、現世と仏の世界とを結び交信をするために用いられました。焚くとその煙の中に死んだ者の姿が現れるという伝説上の香、反魂香は、中国の故事が元になっており、日本では古典落語の演目としても知られています。

 

また、本作のもう一つの重要な要素がミニマリズムです。日本におけるミニマリズムは、室町時代の東山文化に代表されるような、「わび・さび」の概念を示し、「もののあはれ」や「幽玄」と呼ばれるような美意識に基づくものとして認識されています。源氏香も、そのような貴族社会の中で醸成されたハイコンテクストカルチャーと言えます。
長方形に対してのコンポジションという絵画のフォーマットを排除した「ウッドカッツ」は、彫刻的な要素が強い作品です。平行四辺形に配置された五本の直線は、外形のエッジに一致する形で配置され、合理的であり連続性のあるオブジェクトとして表現されています。
これらは、ドナルド・ジャッドにより1965年に発表された「スペシフィック・オブジェクツ」に記述された美術的傾向に基づく表現手法に通ずるものです。素材には木質繊維板を機械加工したものを使用していますが、五本の線の組み合わせによって完成される五十二種類の図は、全てが異なるものとなっており、工業的に量産されうる現代のアート作品を肯定しているものではありません。また日本の伝統的な漆芸技法である「溜塗(ためぬり)」によって仕上げられた表面は、画一的なテクスチャーではなく、機械加工された形状に対応するように塗膜の厚みが変動し、幾重にも重なったレイヤーとなっています。これは絵画的な側面としての色相と形状によって導き出された、空間的な要素との直示性を示しています。つまり、絵画でも彫刻でもない「スペシフィック・オブジェクツ」なのです。
ハイコンテクストカルチャーとして、豊かな独自性にあふれた日本の香りの文化。その軌跡を辿り、アートの潮流と重なり合う部分から、新しいフォーマットが導きだされます。
本展ではこの「ウッドカッツ」の他、代表作のヒールレスシューズシリーズやヘアピンシリーズ、また平面作品のエンボスドペインティングシリーズから新作を展示します。日本文化を再考、再発見し、異なる要素と結びつけることによって、新しい地平を開いていく。舘鼻の創作のプロセスをたどる知的冒険に誘う本展を、この機会に是非ご高覧下さい。

 



展覧会概要

展覧会名
舘鼻則孝「WOODCUTS」

展覧会会期
2019年9月7日(土) − 10月12日(土)
9月7日(土) 18:00 − 20:00 オープニングレセプション

開廊時間
11:00 - 18:00(火・水・木・土)
11:00 - 20:00(金)
日・月・祝は休廊

会場
KOSAKU KANECHIKA
〒140-0002
東京都品川区東品川1-33-10
TERRADA Art Complex 5F
03-6712-3346
kosakukanechika.com

入場無料




舘鼻則孝(たてはな のりたか)

1985年東京生まれ。歌舞伎町で銭湯「歌舞伎湯」を営む家系に生まれ鎌倉で育つ。シュタイナー教育に基づく人形作家である母の影響で、幼少期から手でものをつくることを覚える。2010年に東京藝術大学美術学部工芸科染織専攻を卒業。遊女に関する文化研究とともに、友禅染を用いた着物や下駄の制作をする。「イメージメーカー展」(21_21 DESIGN SIGHT、2014)、「Future Beauty」(東京都現代美術館 ほか国際巡回、2012)、個展「呪力の美学」(岡本太郎記念館、2016)等の他、ニューヨーク、パリ、 オランダなど世界各地で作品を発表。また2016年3月にパリのカルティエ現代美術財団で文楽公演を開 催するなど、幅広い活動を展開している。作品はメトロポリタン美術館、ヴィクトリア&アルバート博物 館などに収蔵されている。2019年10月5日から12月1日まで、アメリカ・オレゴン州のポートランド日本庭園にて個展「NORITAKA TATEHANA: Refashioning Beauty」を開催予定。

WORKS

  • Baby Heel-less Shoes, 2019

  • Baby Heel-less Shoes, 2019

  • Heel-less Shoes, 2019

  • Heel-less Shoes, 2019

  • Heel-less Shoes, 2019

  • Heel-less Shoes, 2019

  • Heel-less Shoes, 2019

  • Embossed Painting, 2019

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